レイロフかハドバルかと悩んだ結果、テュリウスのテキパキとした仕事ぶりをに感化されハドバルについて行くことに。
生き残ったのはどうやら俺たちだけのようだな。あれは本当にドラゴンか?終末をもたらすもの者なのか?
ハドバルは砦に入ると一人でブツブツと呟いている。
そして、ああ忘れてたとでも言うように「こっちにこい、拘束を解いてやる」と、ガッチリと縛られていた縄を切ってくれた。
石を積み上げて作られている砦の内部をキョロキョロと見渡す。
とりあえずまともな服が欲しいと思っていると「その宝箱のどれかに剣の1本や2本あるだろう。見てみなよ」と、やけにフレンドリーな言葉遣いで話しかけてくるハドバル。
その辺に置いてある宝箱を開けてみると、中には帝国軍の装備が入っていた。
「ちょっと!着替えるんだからこっち見てんじゃないわよ!エロエロ大魔王め!」
「み、みみみ見てねーよ!!エロエロ大魔王ってなんだよ!!」
ハドバルはブツブツ文句を言いながら遠くの方に行き、宝箱を物色し始めた。
ササッと着替え、近くにあった剣も一本拝借し、とりあえずは戦える格好に。
「もういいよ~」
「はいはい…えーっと…それで、名前…なんていったっけ?」
「名前?リリだよ」
「ああ、そうだったな。じゃあ、リリ、色々思う所はあるだろうがとにかく今はここから脱出することが先決だ。急ごう!」
うん、そうだね。なんにもしてないのに頭を強打されて拉致られて、荷物もお金もぜーんぶ取られて、リストに載ってないにも関わらず首を切って殺そうとしたこととか、色々思う所はあるけども、まぁそうだね。
無表情でそう語るリリに、ハドバルは「悪かったよ、俺も上には逆らえなくてさ、な?悪かったって」
「…悪かったで済んだら衛兵なんていらないんじゃー!!」
これまでのことを思い出し、恐怖と悔しさが涙と一緒に一気に溢れだす。
その上「悪かった」で済ませようとしているこの男も許せんっ!!
「わかった、わかったから!本当に申し訳なかった!じゃあこうしよう、失った物で買えるものがあれば俺が弁償するよ。(こんな小娘の持ってた物なんて大したことないだろうしな)それで許してくれるか?」
涙でぐちゃぐちゃになった顔で少し考えた後、「…約束だからね…」と一言。
「よし、じゃあ前へ進もう!」
鍵を開け進もうとした時、ちょっと機嫌がなおってきたリリの耳に聞こえてきたのはストームクローク兵と思われる話し声。
ハドバルが話し合いをしようと思うものの、相手は全く聞く耳を持たず、代わりに剣を振り上げてきた。
さっきまで一緒に馬車に乗ってたのに…なんだか複雑な気分だけど…仕方なし。
私だって殺されそうになったけど、生き抜くのが先だと思うからこうしてハドバルについて行ってるのだ。
ずっと違和感があったけど、やっぱりストームクロークとは合わないかもしれない…。
そんなことを考えながら、さらに先へと進んでいくとまたしてもストームクローク。
やっぱり話し合いには応じず戦闘態勢。
「仕方ない、いくぞ!」
ハドバルが2人に突っ込んでいったので、リリは後方から火炎魔法を放った!
「ふぅおおぉぉぉぉ!!!」
あー、やっぱり魔法は苦手だなぁ…とは言っても剣もあんまり使ったことないしなぁ…と考えている中、ハドバルはメラメラと怒りと闘志と体を燃えさせながら懸命に戦ったのであった。
どうやらここは貯蔵庫のようで、よく見ると回復薬や食べ物がたくさん置いてある。
「必要なものは持っていった方がいいな」
ハドバルの助言に従い、持てるだけのものを全て持って先へ…
「ねぇ?本当に出口なんてあるの?」
おなかすいたぁ…と愚痴るリリに、ハドバルが「しっ!声が聞こえる!仲間の声だ!」と言うと走り出した。
辿り着いた所は広めの部屋になっており、そこで帝国軍とストームクロークとの死闘が繰り広げられている!
魔術師と思わる帝国兵が雷撃を放っている後ろから、ハドバルが走り寄りー…
女性のストームクローク兵は「う…」と小さく呻くとその場にバタリ。。
まさかの柄で倒すとは…ハドバル侮れないな…
静かになり周りを見回してみると、ストームクロークの他に帝国兵も一人倒れている。
「ドラゴンがヘルゲンを襲ってるんだ!今すぐここから逃げないと!」
ハドバルが必死に説明するも、帝国軍の一人はバカにした様子で鼻で笑うだけだ。
しかし、もう一人の男は心当たりがあるらしく「そういえばおかしな音がしてたな…。…わかった、お前と行くことにするよ」と素直に従った。
「そこの囚人はどうしたんだ?」
ハドバルが見ている先では、檻の中で魔術師らしき男が倒れている。
「何週間も泣き喚いてたよ、もう死んでるけどな。鍵もどこかにいっちまって開けられやしない」
見るとその魔術師の横には呪文書のようなものとゴールドが数枚、そして薬も転がっているではないか。
ねえ!ロックピック持ってないの?
「ん?あぁ、あるけど…開けられるのか?」
ハドバルが数個のピックを手渡す。
「一個で十分だよ」
・・・
・・・カシャン
檻に近づいたかと思ったら、わずか2秒でその鍵を開けて見せたリリ。
ハドバルは、「変な特技を持ってるんだな…」と少し訝し気だ。
中にあった雷撃の呪文書を手に眉をひそめながら「魔法はなぁ…」と一人呟くリリ。
「とにかく、持てるものは全て持って先を急ごう」
ハドバルを追いかけていく途中にはいくつもの檻があった。
中には骸骨が転がっていたり、銭袋が放置されている場所も…。
もちろん全て貰っていきます!一文無しですから!
そこからしばらく歩いていくと、また話声が聞こえてきた。
「どうせ話そうとしてもあいつらは聞く耳もたんだろうな…」
そう言うとハドバルは剣を抜き走り出す。
数人の兵士がこちらに気づき、雄叫びを上げて襲い掛かってくる!
手前にいた三人を剣と火炎魔法で倒して安堵していた矢先…ひゅっという音がしたかと思うと向こう側から矢が…!
そこには二人のストームクローク兵士!しかし、魔法の使い過ぎでもうマジカがカツカツだ…
ふと地面を見ると、なんだか地面がぬめぬめと光っている
…あ、、これ…もしかして…
そう、油だ!これに火をつけるくらいのマジカは残っている!
リリは思いっきり火炎魔法を地面に向けて放った!
「さっきからなんなの…」
「ご、ごめ…」
「違うよね、攻撃する相手ちがうよね」
「ごめんて…」
何とか無事に倒せたものの、二度目の火傷を負ったハドバルは涙目になりながらせっせと回復薬を塗り込んでいた。
次に遭遇したのは…蜘蛛!
突然大きな蜘蛛が天井から降ってきたかと思うと、毒を吐きかけてきた。
「いぃぃーーーやぁぁぁぁーーー!!!」
見た目が無理!むりむりむりーー!!
半分パニックに陥りながら火炎魔法をまき散らす。
ハドバルもリリの炎使いには少し慣れてきたようで、「ほっ!…ほっ!」と上手に避けながら蜘蛛と奮闘!
しかし、見た目とは裏腹に炎に弱いらしく、案外簡単にご臨終となった。
「蜘蛛の毒より炎を避ける方が大変だな…」
倒し終えたハドバルは肩で息をしながら独り言ちる。
「ちょっと待て…!…クマがいる…」
しばらく進んだところで突然ハドバルが小声でリリを制止した。
どうやら今は争いたくないからスニークですり抜けようとしているらしい。
と、同時に「もしくはこれを使ってみるか?」と差し出されたのは一本の弓…
えー!?弓持ってたの!?なによーもう、はじめからそれくれたらよかったのにぃ…
「え?なに、お前弓使いだったのか?」
「そうだよ、私が得意なのは弓なの!あと隠密と…スリ♪」
「おいおい、今は冗談言ってる場合じゃないぞ…」
冗談じゃないんだけどな~と思いつつ弓を構える。
「ほんとにやる気か?…まじかよ…」
息を止め、的確に位置を決める。
……ヒュン
静かに放たれた矢は、まっすぐ熊へと向かう。
そして…
「ぐぅぅおおぉぉぉ…」
重苦しい叫びが響いたかと思うと、熊はその動きを止めた。。
「まじかよ…」
ハドバルが二度目の「まじかよ」を言った後、動かなくなった熊に近寄る2人。
リリが放った矢はクマの頭を貫通していて血さえほとんど流れていない。
「ほんとに…さっさと弓渡しとけばよかったな…そしたらこんな火傷も負わずに済んだな…」
ハドバルは最初に得意武器を聞かなかったことを激しく後悔したのだった…。
「ん…?ねえ、なんか風の音しない?」
しばらく行ったところでリリがそれに気づく。
「本当だ!あっちだ!」
走っていった先に見えたもの…それは…
2人は風が吹き込んでくるその出口に向かい全速力で走った。
外に出たら…持っていたもの弁償…ふふふ…
リリはにやけながらハドバルの背を追いかけたのだった。。