次の日の朝。
リリ、ヴィリヤ、ルシアンが朝食を食べ終わり、そろそろ出発しようかと話していると「こんにちは!」と声をかけてきた少女がいた。
ママがね、新しいママとパパがくるよって言ったの。それってママとパパを二人ずつ持てるということよね
三人が「へ?」と顔を見合わせていると、少女の隣に黒髪の女性が立った。
彼女は「ごめんなさい、私の娘のヘンリエッタよ。ほら、邪魔しちゃダメでしょ?あっちで遊んでらっしゃい。」と娘の背を押す。
少女は「じゃ、またね!」と愛らしい笑みを浮かべてマーカスの方へ近寄っていくと、楽しそうにおしゃべりを始めた。
きっとマーカスは、リリたちを待っている間にあの子と仲良くなったんだろう。
しかし…走っていく娘を見つめる母親の顔色は、どうも調子が悪そうでどこか儚げだ。
数週間自問自答しています。私は大丈夫か。あの子はこれから大丈夫か。ここに来たのは間違いではなかったのか
またしても「どゆこと?」状態の三人に彼女は話し始めた。
彼女の名前は「ミレア・エンティアス」
ほとんど歩けないほどの痛みと咳に悩まされていて、具合の悪い日には死にたくなるほどなんだそう。。
治癒の魔法も効果がなく、自分の死は確実だと信じているミレアは、なんと埋葬場所までもう決めてるんだとか。
残される娘のことだけが心配で、自分が死した後はこのファルクリースに住む夫婦に彼女を養子に出そうと思っていると語る彼女。
だけど、娘に自分のことを忘れられてしまうのも辛いのだという。
そうだね…家族が亡くなるのは辛いよね。。
ねぇ、娘さんに手紙を書くのはどう?彼女が大人になるまで、誕生日に手紙と小さなプレゼントを用意しておくの。
あなたがいなくなってもヘンリエッタはあなたのことを絶対に忘れることはないと思うよ。
リリがそう言うと、ミレアは目を輝かせた。
「どうして思いつかなかったのかしら!それは名案ね!すぐに取り掛からないと。ありがとう!」
パタパタと急いで宿を出ていく彼女の背中を見つめながら、ヴィリヤはポツリと呟く。
「だけど彼女、なんだか死を受け入れすぎてて違和感を感じたわね…。
どちらにせよ、二人には幸せな時間を過ごしてほしいけど…まぁ、色々あるわよね生きてれば…」
ちなみにここのカウンター下には、話術のスキル書「火中に舞う 第6章【A Dance in Fire, v6】」が置いてあります。
忘れずに読んでおきましょう。
そういえば、ヴィリヤの話の続きはどうなったんだろう?
「ねぇ、ヴィリヤの話の続きは?」
リリがそう聞くと、「ああ、そうだったわね。じゃあ、出かける前にちょっと聞いてくれる?」と言い、ルシアンにも今までの話を説明したうえで話の続きを話してくれた。
ヴィリヤのフルートがなくなったのは、ハルヴダンに「あんたとの結婚なんてお断りよ!」と伝えた2日後だった。
フルートを盗んだ犯人ハルヴダンを問い詰めると、彼は笑いながら「あのフルートは二度と戻ってこないぞ。あんな立派なフルートはお前のような人間にはもったいないだろう?そもそもお前は吟遊詩人ではなく俺の妻になるんだからな」と。
なんと、ハルヴダンは未来の妻に音楽をさせないがためにフルートを盗み、そしてあろうことかそれを”一風変わったスカイリムのカジート吟遊詩人”に売ったらしい。
ヴィリヤはすぐにそのカジートを追いかけるつもりだったが、お祖母ちゃんが病気になってしまいそう長くはないことを知る。
そのお祖母ちゃんが死の間際に渡してきたものが小瓶だった。そう、リリと出会ったきっかけとなった盗まれた小瓶だ。
お祖母ちゃんの話によると、その小瓶はお祖母ちゃんのお祖母さんから引き継いだものだとわかった。
早くスカイリムに持っていこうと思っていたお祖母ちゃんだったけど、結婚して子供が生まれるとソルスセイムを離れることが難しくなってしまい、結局この年まで罪悪感を抱えて生きてきたらしい。
お祖母ちゃんの思いを必ず果たしてみせるとヴィリヤが約束すると、お祖母ちゃんは本当にほっとしたようだった。
こうしてヴィリヤは「カジートからフルートを取り戻すため」「お祖母ちゃんとの約束を果たすため」という二つの目的のため、スカイリムまでやってきたのだと。
スカイリムについたヴィリヤは、シロディールのハナミズキで作られたフルートを持つカジートのことを聞きまわったが、今のところ情報は皆無みたいだ。
ヴィリヤは「だからこれからも吟遊詩人や宿屋の主人、その辺にいるカジートにも聞きまくっていくつもりよ」と言った。
なんて最低な男なんだ!同じ男として恥ずかしいよ!
ヴィリヤ、ぜひ私にもその目的を手伝わせてくれ!
一番に反応したのはルシアンで、かなりご立腹の様子。
そして続けて「ちなみにソルスセイムからは船で来たのかい?」と尋ねる。
ヴィリヤは「そうそう、船でねー…まぁ、ちょっとその船でも大変だったんだけど…」と言って面白い話を聞かせてくれたのだった。
ソルスセイムのレイヴン・ロックからドーンスター行きの船に乗ったヴィリヤは、そこで素晴らしいリュートの腕前の吟遊詩人に出会ったらしい。
レッドガードの彼はリュートを教えてくれると言ってたけど、当のヴィリヤはひどい船酔いでそれどころじゃなくなったんだとか。
海の上で、ほとんどの時間をバケツに頭を突っ込んでいたらしい。
ドーンスターに到着したその夜、宿で大量のビールを飲んで上機嫌だったヴィリヤだったが、次の朝起きた時にはすでに彼の姿はなかった。
そして宿の主人も「早く帰れ…」って顔をしてたみたいで…
まぁ、いつも通りテーブルダンスを披露したんだろう。。
正直、宿でのことはほとんど覚えてないの…
だけど、どこかでまたあの吟遊詩人に会えたら、改めてリュートを教えてもらいたいわね!
さ、私の話はここまで!そろそろ出発しましょ!
「で、その珍しい植物はどの辺にあるの?」
宿を出た三人は、ルシアンの言う”珍しい植物が生息している場所”について話し合いを始める。
ルシアンは、「聞いた話によるとファルクリースを出て右へ曲がって、少し行った草むらの中で見たって話なんだ」と身振り手振りで説明。
じゃあ、ちゃっちゃと草取ってモーサル向かお!と、三人は出発した。
進んでいくと左手に何かが見えてきた。
「ん…?何か見えてきたね。遺跡かな?」
興味深いな!ぜひ入ってみたいんだが、いいかな?!
ルシアンがウキウキした顔でそう言うので、三人は警戒しながらも遺跡に近づいていく。
遺跡の入り口には山賊らしき男たちの死体が二つ。
「血はもう乾いてるから、かなり前に殺されたみたいね」
リリがそう言いながら一歩進んだところで、ルシアンが「じゃあ、危険はないってことだな?」と言ったかと思うと、遺跡の奥へと走り出した。
「素晴らしい!本当に素晴らしい!あっちはどうなってるんだ!?」
リリとヴィリヤは「ちょっと!まだ危ないわよ!」と止めるが、時すでに遅し……
「やばい!スプリガンよ!!」
「ルシアン!戻って!」
しかし、二人が叫んだ時にはスプリガンはもうルシアンの目の前だ!
ルシアンに襲いかかるスプリガンに、ヴィリヤがいち早く一撃を与える。
弱っていたのか思ったよりも反撃が少なく、リリとヴィリヤのコンビプレーでなんとか無傷で倒すことに成功。
ルシアン急ぎすぎ!もう少し慎重に行動してくれないと、守りたくても守れないし!
そう言いながら後ろを振り向いたリリは驚愕の表情を浮かべる。
そこには蹲ったルシアンの姿が……
「え!?ちょっとルシアン!?……大変!足から血が出てるわ!」と走り寄るヴィリヤ。
ルシアンは「足をやられたみたいだ…うぅぅ…」と呻いている。
「誰かこの近くにいないかしら!?ファルクリースに戻るにしても足をやられてたんじゃ支えきれないわ。
リリ、ちょっとその辺見てきてくれる?」
リリは「わかった!」と言うと急いで遺跡を出た。
だけど只でさえ辺鄙な場所だ。見渡す限り人影などどこにもいない。
「誰かいませんかー!?」と大声で叫びながら探し回っていると、少し先に何かの建物が見えた。
なにこの…家…?
その建物は木をくりぬいて作ってあるようで、とても奇妙に感じた。
こんな場所にぽつんと立っている家なんて、どんな奴が住んでるかわかったもんじゃないけど…
できれば避けたいところだが、今は迷ってる暇はない!
ルシアンの傷の具合がどれほどかもわからないし、とりあえず早く助けを呼ばないと。
そう思い躊躇しながらも思い切ってノックをするリリ。…が、反応がない。
「留守かな…」と思いながらドアを少し押してみる。
するとあっけなく扉は開き、奥には鼻歌を歌いながら鍋をかき回す女性の後ろ姿が見えた。
えらくご機嫌のようで、かわいい声で鼻歌を歌い続けている女性。
とりあえず山賊オヤジとか変な魔術師じゃなくて良かったと胸を撫でおろす。
「あの~…」と声をかけると、驚いたように振り返る彼女。
その姿は、リリが今まで出会った事のない風貌をしていた。
……ツノ…!?
思いがけない姿に言葉を詰まらせていると、彼女は「こんにちは」とかわいく微笑んだのだった。