「ここから殲滅する」
リリがそう呟くと、ヴィリヤが「嘘でしょう?」という顔でこちらを見た。
吸血鬼たちは全くこちらには気づいておらず呑気に欠伸までしている。
リリは女吸血鬼の頭に狙いを定めると、息を止め静かに弓を引いた。
放った矢が音もなく飛んでいったかと思うと、静かな洞窟内にドサっという音だけが響いた。
遠くで倒れた敵を見てあんぐりとするヴィリヤ。
側にいたルシアンも思わず後ろの二人を見る。
「弓は得意だって言ったでしょ♪」
リリは得意げな顔でそう言うと、同じ要領で男吸血鬼とデスハウンドに向かって矢を放った。
そして、バタバタと倒れていく敵陣に満足し「さ、行こう」と歩き出す。
ぼうっと灯りが漏れている方へ進んでいくと、男の死体が一つ…
やはり嫌な予感は当たっていたのだ。
トランは一人でこの墓地に入り、そして奴らの餌食となった。
もう少し早く着いていれば一人で乗り込んだりしなかったかもしれない…
そう思うと、悔しさと申し訳なさで胸がいっぱいにる。
「先に進もう…!」
リリは、必ず敵は取ることを約束し灯りが漏れる方へと進みだした。
奥へと続く扉を見つけたものの、そこは固く閉じられていて進むことが出来ない。
辺りを見渡すと、反対側にいかにも怪しい入口をもう一つ見つけた。
そこへ入ってみると、やっぱり怪しいレバー(?)が…
それを下へ引いてみると、先ほどの扉がガシャンと上へ引き上げられる。
一体どういう構造でそうなるのか疑問は残るが、とりあえず進みだす5人。
扉をくぐるとすぐに水が流れる音が聞こえてきた。
水は上のほうから流れてきてるようで、階段の先には吸血鬼の姿が…
いつも通り、背後から忍び寄り一発で仕留めようとしたリリだったが、その手前まで来た時スケルトンが地面から湧き出てきた!
突然のことに慌てふためくリリの背後から飛んできたのは一本の矢。
見ると後方にいたオーリが弓を構え戦闘態勢だ。
「やっちゃっていいんだよね?」
オーリのその言葉が合図となり、ヴィリヤとイニゴが剣を片手に敵陣へ突進!ルシアンは魔法で攻撃開始!
そして戦いは一瞬のうちに終わった。
「みんな強いよね~(‘ω’)」と感心しているリリに、「伊達にフォロワーやってませんから!」と胸を張る。
次に出てきたのはレバー付きの扉で、これは簡単に開けることが出来た。
ここには、4つの棺とアルケイン付呪器、宝箱が置いてあるだけで敵はいない。
付呪器の上にあった魂石と宝箱の中身をしっかり頂戴した後、右手に伸びる地下へと降りていく。
しかしそこには目を疑う光景が…
吸血鬼とドラウグルが戦ってる…?
吸血鬼は難なくドラウグルを倒し、戦闘を終えたかと思うとこちらに振り向いた。
「誰かいるの?!」
見つかってしまった…これはやっちまうしかない。
そんな中、一番早く弓を引いたのはイニゴだった!
やだもう、イニゴ、イケメン!
とか言ってる場合ではない。
「はっ!そんなものなの!」
果敢に剣を振りかざし吸血鬼に立ち向かうヴィリヤ。
先ほどの吸血鬼と同様に、呆れるほど弱かった女吸血鬼さんとデスわんこ。
なんか…思ってたより吸血鬼って弱いんじゃないの?
そんな独り言を口にしたリリに、ルシアンも「そうだな!こんなもんなら私でも十分戦える!」と頷く。
「何バカな事言ってるのよ、こいつらは下級だから弱いけどもっと上の奴らはこんなものじゃないわよきっと」
ヴィリヤはそう言うと、ふぅと一息ついた。
さて、この場所をよくよくみるとなんだか変な作りになっていて、道が4つあるのだ。
反時計回りに見ていくことに決めたが、最初の通路には門が閉まっていた。そしてすぐ横にレバー。
ヴィリヤが「これがカギね」と言ってすぐに引こうとしたので、慌てて「ちょっと待って、何か出てくるかもしれないよ!?」と言ったが、彼女は「何も出て来やしないわよ、中にはないもいないでしょ?」というと躊躇なくそれを引っ張った。
なんか出てきたぞ…
でも、出てきたのは一匹だけだったので、サクッと倒して終了。
「んも~だから言ったじゃーん」というリリに、ヴィリヤは「ごめんごめん、今度から気を付けるわ」と笑う。
通路に入ると両サイドが格子になっていて、その向こうに棺が並んでいるようだ。
戻ろうかと踵を返したところで、リリが立ち止まる。
左のほうを見ると、なんとそこにメイスが!しかも付呪付きのいいやつだ!
あれ、ほしいな~高く売れそうだな~…と考えていると、それを見ていたルシアンが「それは無理だろう」と言ってきた。
確かに手を伸ばしても格子が邪魔で届かない。
「諦めて先に進もう」と言うルシアンにリリは「ちょっとだけ待って」と返し、そのメイスへと手をかざした。
その瞬間、一同は驚きのあまり声も出ないまま只々リリとそのメイスを交互に見つめる。
なんと、「おいでおいで」と言いなが掌を動かしたその時、メイスがスーッとリリの元へと移動したのだ。
…え!?なにそれ!?どうなってるの!?
リリは、手元にやってきたメイスを何事もなかったかのように手にすると「ふぅ~」と一息吐いた。
「これは変性魔法の念動力。基本的に魔法は得意じゃないけど、コレだけは得意だったんだよね~」
こうして難なくお宝をゲットした一行は次の通路へと向かう。
反時計回りで二番目の通路も同じつくりではあったが、ドラウグルが出てくることもなく一安心。
放置されていたいくつかの薬だけ手にすると、さあ次は3つ目だ!と歩きだした。
ねぇ!こっちに大きな宝箱があるよ!
オーリが見つけたその場所は4つ目の通路の奥で、見てみると確かに大きな宝箱が置いてある。
いかにも何か出てきそうな雰囲気だけど…大きな宝箱を放置することなど盗賊にとってはあるまじき行為だ!
で、行ってみると特になんにも出てこなかった。しかしここで問題が…
その宝箱、大きいだけあって「達人級」の鍵で施錠されていたのだ。
「これは苦戦しそうだな」と言うイニゴに、リリは「ふふふ…」とほほ笑むとスタスタと箱の前まで進み出た。
そして、ふんふふふ~んと鼻歌交じりでカチャカチャやること20秒。
カチャンという小気味のいい音を立てて鍵が開いた。
盗賊ってすごいんだな…
「盗賊に関するスキルはそこそこあるんだよ~へへーん」
腕組みをして鼻高々のリリの手にはしっかりと「エメラルドがはめ込まれたティアラ」や「氷雪の杖」が握られていたのだった。