ジョーカーが記してくれた地図を見ながら、5人は早速ドーンガード砦へと向かう。
黙々と歩いているとなんだか空模様が怪しくなってきていることに気づく。
辺りを見渡せば霧も増してきていて、ただでさえ気が重いのにいかにもな雰囲気に余計に気持ちが落ち込んできそう…
ドーンガード砦へ行くことにあれだけ満足げに笑っていたヴィリヤも、さすがに怖くなってきたのかキョロキョロと周りを警戒しながら進んでいた。
すると、突然ルシアンが「リリ、ちょっといいか?」と呼び止める。
悪いがこれを渡しておきたい。今のところ、この協定はうまくいっているようだから
手渡してきたのは見たことない代物で、それを彼は「ドゥーマーの共鳴スフィアだ」と説明した。
ルシアンが家を出る時に父親から貰ったものらしく、起動するとルシアンが持っているもう片方のスフィアと共鳴するらしい。
万が一離れてしまっても、このスフィアを使えばお互いを見つけることが出来るということだった。
まあ、頻繁に使う必要がないといいが。。
とにかく…べったり後をついて行くから。
「すごく便利だね!ありがとう」
礼を言い再び砦へと歩き始める。
「おかしいわね…この辺のはずなんだけど」
しばらく行ったところでヴィリヤが周りを見渡しながら呟く。しかし、砦のような建物はどこにも見当たらない。
「確かに地図ではこの辺であってると思うんだけどな…」
地図と周辺を見比べながら、行き過ぎたのかな?と考えていると、先を歩いていたオーリが「ねえ!こっち!ここじゃない?」と左のほうを指さした。
みんなでオーリのいる方に走っていくと、そこには確かに入り口のようなものが…
ぽっかりと暗い穴が開いている。
リリは恐る恐る覗き込んでみたが闇が深く先が見えない。
しかし、そこには火が焚かれており地図の場所から考えてもここが砦への入り口で間違いはなさそうだった。
本当にここに入ってくの…?
引き返すなら最後のチャンスだぞ!という思いを込めて言ったつもりだったが、みんなの返事は要約すると「さあ行こう!みんなで行けば怖くない!」ということでまとまってしまった。。
「やっぱりそうなるよね…」
こうなったら仕方ない。
ため息を吐きつつも覚悟を決め「よし!いくぞー!」と、その闇の中へと足を踏み出した。
暗くジメジメした岩肌の道は思っていたよりもすぐに終わり、向こうから光が差し込んでくる。
そして洞窟を抜けた5人は「わぁ…」と感嘆の声を上げた。
そこには暗い洞窟からは想像もしなかった景色が広がっていた。
「なんだ~びびって損した~」
澄んだ空気と燦々と降り注ぐ太陽に出迎えられた5人は、そんな軽口をたたきながら砦を目指す。
サクサクと薄く積もった雪を踏みしめながら進んでいくと、右手に男の姿が…。
…あの人何してるんだろ?と訝しんでいると、その男は驚いたようにこちらを振り向き「やあ!」と声をかけてきた。
やあ、あんた!あんたもドーンガードに入るのかい?
どことなく頼りなさげな風貌のその男は、聞いてもいないのにペラペラと喋りはじめる。
「正直、ちょっとビビってるんだ。何しろこういうのは初めてだから。一緒に行っても構わないかな?」
リリがそれを承諾すると、今度は「なあ、俺が1人で会うのを怖がってたこと、イスランには言わないでくれよ。吸血鬼ハンター志願者としちゃ、あんまりいい印象与えないだろうからね。」と言ってくる始末。
なんかめんどくさそうなやつだなーと思いつつも、適当に「はいはい」と生返事を返した。
しばらく進んでいくと一人のオークがへんてこな武器を持ってガシャンガシャンとやっている。
「そこのあんた、吸血鬼と戦う気はあるか?」
突然そんなことを聞かれたリリは、ため息交じりに答える。
戦いたくはないけど戦わなければいけないことになっちまってここに来たんだよ(; ーдー)
デュラックと名乗ったオークは「事情がありそうだな。まあいい、どんな事情があるにせよ吸血鬼と戦ってくれるやつが増えるのはいいことだ」と言う。
そして「ほら、これを持っていけ」と武器を渡してきた。
こいつを持っていって使ってみるといい。本気でドーンガードの一員になるなら、使い方を身につけておくべきだ
「これはどうやって使うの?」
不思議そうにその武器を眺めていると、デュラックは構え方から撃ち方までを親切丁寧に教えてくれた。
が、しかし。
どれだけ教えられても全く魅力を感じることが出来ないリリ。
「弓のほうが慣れてるし弓でいいかも…」
デュラックは笑って「まぁ、使い慣れた武器があるならそれでも構わないさ。さあ、砦に行ってイスランに会え」と言うと再びクロスボウを構え訓練を再開した。
ヴァレンウッドには湿地に潜む吸血鬼がかなりいるけど、ドーンガードが相手にするのとは全然違うわ
オーリがそんな独り言を口にした頃、目の前に信じられないほど立派な砦が姿を現した。
うわぁ…大きな砦~…と感嘆の声をあげつつ、よく見るとその入口には門番らしき一人の男が立っている。
そしてその人物の前には先ほど「一緒に行ってもいいか」と声をかけてきてたアグミルが…
「何やってるんだろ…」とリリ達が近づいていくと、こちらを確認するや否や、まさに「今到着ました!」と言わんばかりに砦の中へと走っていった。
こんなんで大丈夫なんかな( 一一)と思っていると、リリ達をアグミルの仲間だと思ったのか、門番が「新入りか?」と聞いてきた。
続けて「イスランが今さら連絡を寄こしたのも驚きだが、奴が俺の助けを求めてるってのはもっと驚きだ」と少し困惑しているようだ。
話を聞いてみると、イスランとセラーンは番人のメンバーだったが水が合わず、嫌気がさしてやめたらしい。
その後しばらくは一緒にいたが、方向性の違いで決別したんだとか。
「とりあえずイスランに会って話を聞け」
そうセラーンに背中を押され、リリ達は静かに重い扉を開いた。目の前には広い空間が広がっている。
その中央では厳しい表情で話し合う2人の男の姿があり、砦内はなんだかピリピリした雰囲気に満ちていた…
なぜここにいるんだ、トラン?番人と私の関係はずっと昔に切れたはずだぞ
ここに来た理由は分かるだろう。番人たちがそこら中で襲われている。吸血鬼らは我々が思っていたよりもはるかに危険な存在だ
トランと呼ばれた男がそう答えると、目の前の男は「ドーンガードに守ってほしいというわけか?」と再び問いかける。
2人の会話を聞いていて、この問いかけた男がドーンガードのリーダー、イスランだということがわかった。
番人のカルセッテが何度も言ってたな。ドーンガード砦は廃墟寸前だから、人と金を使って修復する価値はないって
一触即発だとも思える空気の中、リリ達はもちろん、先に入っていたアグミルも口を閉ざしたまま2人のやり取りを静かに聞いていた。
イスランは息つく暇もなく、今度は「自分で吸血鬼を怒らせたくせに私に守ってほしいのか?」と投げかける。
トランは勘弁してくれとでも言うように「カルセッテを含め全員が番人の間で死んだ、お前が正しく我々が間違っていた。それ以上なにを求める?」と、投げやりともとれる返事だ。
しかし、全員死んだという言葉が効いたのか、イスランはさっきまでの攻撃的な言葉をやめ「こんなことは望んでなかった、君たちに警告しようとしたんだが…すまなかった」と謝りだした。
セラーンの言っていた通り、これは一癖も二癖もある人物なのかもしれない。
扱いが難しそうだな…とリリが思っていると、突然イスランがこちらを振り向き言った。
「君は誰だ?」